【SS】東の海の夜の森。第4戦


どれほどの距離を移動できただろうか。
体感にしてみれば10mは移動したと思う。勿論夜戦での体感だ、実際の所5mちょいが関の山だろう。

しかし、その5mは馬鹿に出来ない距離であった。
頭を持ち上げ索敵する。先程迄の景色と全然違って見える。
月明かりの入り方。茂みの深さ。目に映る影。

恐らく敵影であろうポイントに狙いを付けつつ動向を探る。

木の影、人の影、一見すると同じ様に見える影でも、注意深く観察すれば大いに違うことが判る。

風で揺らめく枝とは違った揺らめき。
自然物とは違ったシルエット。

しかし直ぐに発射はしない。出来ない。
小さな音ですら命取りなのだ。もし外してしまったら?
考えただけでも恐ろしい。

敵を排除するでもなく、前に向き直り、匍匐から低姿勢に変え移動する。
先程の敵は恐らく前しか見ていない、音さえ発しなければ問題は無いはずだ。

ふいに、風切り音が貫く。距離にしてみればやや近くといった処だろう。
自分を狙っている様では無かった。

直ぐさま、と言ってもゆっくり、ゆっくりと伏せる。
顔毎地面に突っ伏し、射手の特定をする。

――ばれた、訳では無いな。しかし、怖い、これは怖いぞ。

スナイパーの存在。非常に恐ろしい。
発射弾数で謂えば電動ガンに歩はあるだろう、しかし、スナイパーの存在とはそれ以上に脅威なのだ。
熟練したスナイパーとなればミスを許さない。
ミスをすれば直ちに餌食とするであろう。

しかし、止まる訳にも行かなかった。戦況は一刻一刻と動いているのである。

――方向がばれて居ないのであれば、後はスピード勝負だな。
射手に位置を特定されるか、はたまた自分が射手の位置に到達するか、どちらが先か、である。

またも低姿勢に変え歩みを進める。
射手に向けて真っ直ぐ。
方向を特定されていないのならば、射手に真っ直ぐ進めるのならば、迅速に動ければ勝てる。

もし仮にシルエットを捉えられているのならばとっくにお陀仏であっただろう。
そうでないのならば近付いた処で問題は無いはずだ。

――他の敵から捕捉はされてない筈だ。いける。

地面が砂地である事も幸いして、足音も無く近付ける。
一歩、また一歩と距離を縮めるとそこにひとつのバリケードが見えた。





2013年11月26日 Posted by タ・カート  at 00:31 │Comments(0)

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